●リーディングドラマ『ファンレターズ』

 これは往復書簡朗読劇『ラブレターズ』と言う、パルコ劇場でずっとやってるお芝居のスタイルを真似たものです。

 椅子に座った二人が交互にメールの文面などを読み上げていく。
 
 ただ、本家の『ラブレターズ』と違うところは、男女の組み合わせではなく、女性二人が交互に朗読する、というスタイルであること、そして、もう一つ大きな違いは、舞台上にいる二人のやりとりは交流していないということ、です。

 そして、稽古は基本1回、4時間のみ。
 これも『ラブレターズ』のスタイルを踏襲しています。

 この戯曲は20年前、じんのひろあきが短編としてまず書いたものを長編化しました。
 そして、固有名詞は幾つか書き換えられながらも、内容は非常にダークなものであるにもかかわらず、愛され、上演が続けられてきました。
 いや、ダークなものだったから、かもしれません。

 


 その短編の戯曲の話からまず。
 今からちょうど20年前に10分の短編演劇を6本で1時間の演目として上演しようという企画に挑戦しました。
 10分の短編が6本。トータル1時間の作品で1500円。
 
 ここまでは、まあよくある話です。
 ですが、そもそも私は変わり者です。
 自分で自分の事を変わっているという人は、ほぼ変わっていません。
 どちらかというと普通の人です。
 ですが、私は本当に変わっています。

 「10分の短編6本、一時間の作品、それはそれでいいけど、そんなのすぐできるじゃん」
 と言い始めたのです。
 10分の短編6本を1ステージとします。
 それを10ステージ、つまり60本全部新作で上演したい、と。
 全ての作品は一回しかやらない。
 全部二人芝居で重複して出る人がいてもいい、重複どころか何本でも本人がやりたいというなら私が書く、そして、演出する。
 と、言い出したのです。
 本番までの時間は2ヶ月半。
 なおかつ、二人芝居でできることは、あらゆることをやろう、と。
 その中でパルコでやっている『ラブレターズ』っていうのも実は二人芝居なのではないか? あれもやってみよう、ということで、非常に短い『ラブレターズ』形式の、二人が交互に文面を読み上げていくという二人芝居を書いたのです。
 これが思いの外、私の中ではヒットしました。
 
 まず、この短編バージョンの脚本をこのホームページに特別に掲載いたします。
  


『ファンレターズ』

ヤノユウコ 一通目
「前略。夢野愛先生。いつも先生のお書きになる小説を楽しく読ませていただいていました。先生の作品は女の子のなにげない感じとかがすごくよく書かれていて、どうしてこんなこんな事までわかっちゃうんだろうといつもどきどきしていました。ですから、最新巻の『夢で会えたらハッピートリップ』を読むまでは全然、先生の本心に気がつきませんでした。私は、もうずいぶん前から、ものすごく漠然とですけど、いつか私の事を小説に書く人が現れるのではないかと思っていました。でも、それが夢野愛先生だったなんて。もうおどろきです。ズバリ言います。あの作品の中に出てくる東ケイという女の子は私ですね。時々、頭痛に襲われ、その後に様々な夢を見るなんていう設定は、私を密かに取材して、書いたとしか思えません。本当に、驚きました。ただ、そのまま書くと、私の事だと世間にばれてしまい、下手をすると民衆に迫害されかねませんから、内容だけは変えて下さったわけですね。そうです。私の見る夢はボーイフレンドの自転車にひかれておでこに怪我をするような夢ではありません。私は夢の中ではいつも別の名前で呼ばれ、私の本当の使命のために闘っています。先生なら、これ以上書かなくてもおわかりと思います。最後に、私のこちらの世界での個人的な情報を書いておきます。私が生まれた日は、太陽と月と火星、金星、土星が黄道(こうどう)十二宮の獅子座に集まっていました。この形に星がみんな並ぶのは非常に珍しいことで、現に、私が生まれた日も、ベネズエラで大きな地震が起きています。私は生まれた時から、きっとなにかある人なのですね。今日はこれから渋谷へ行きます。渋谷にあるトライアングルというお店はもちろん先生はご存じの事と思いますが、そこに今度、オーラを写すカメラが入りました。これから私は自分のオーラを撮影してきます。私のオーラがどんな物か、たぶん先生はとても興味があると思うので、結果が出たら、またお手紙します」

夢野愛 一通目
「FAX送信表。英光出版カッコ株。ティーンズハート文庫編集部滝田様。本状を含めて二枚。いつもお世話になっております。なかなかつかまらないので、ファックスしました。最近、家に変な手紙が届くようになったのですが、お心当たりはございませんか? 最初はただの変なファンレターだと思っていたのですが、ここのところ、二日に一通の割で届いて、中は自分の生い立ちや近況報告、それと私の小説の感想が書かれているのですが、どこをどう読んだらこんなふうな感想になるのかという感じの感想文なのです。手紙の数も枚数も日々増えてきているので、ちょっと恐くなって御相談しました。ティーンズハート文庫にはオカルト物やホラーがいっぱいあるのに、どうして私のラブコメでこういう読者からの手紙が来てしまうのでしょうか? ちょっと、理解に苦しんでおります。トホホホホ、またご連絡いたします。夢野愛」

ヤノユウコ 二通目
「前略。夢野愛先生。今日、先生の家をようやく発見しました。編集部の人々は、私が抱えているもの、背負っていることの重大さなどわかろうともせず、先生とのコンタクトの方法は、聞いても絶対に教えてくれそうもないわからずやどもばかりなので、しかたなく、自分で探しました。どうやって探したか? 気になりますよね。ニフティというパソコン通信で掲示板に先生の情報を求む、と出したら、とある親切な先生のファンの子が先生のHPがあることを教えてくれたんです。その中で先生の出身校を知っている人がいました。出身校と小学校だったので、そこから先はまたまた大変でした。でも先生。ようやく先生の住んでいらっしゃるマンションを発見し、しばらく先生の部屋のベランダが見える児童公園で待っていました。御心配なく、突然先生を訪ねていったりするような、そんな気持ちの悪い人間ではありませんから。どうせ、先生にはその時になれば会えるのですから。先生、でも、私は運命を感じました。児童公園のベンチに座って、先生の家のベランダを見ていたら、なんと先生が洗濯物を取り込みにでていらっしゃったのです。まるで、私がそこで待っていることを知っていらっしゃるかのように。いや、ご存じだったのですね、きっと。私は胸がいっぱいになりました。また、お手紙します」

夢野愛 二通目
「ティーンズスイート編集部滝田様。こんにちは『ドキドキバスガイド恋のハイスクールかっこ仮題』はようやく三十枚を突破しました。思ったより、難航しております。さて、先日お話ししました、例の毎日送ってくるファンレターの子ですが、どうやら次の日曜日に私に会いに来るようなことを言っています。大変困っております。これはひょっとして、いや、ひょっとしなくても、今、流行のストーカーというやつでしょうか? 彼女の手紙に書かれていることを総合すると、彼女はヤノユウコ、十九歳、対人関係でいつももめて、アルバイトが長続きせず、ただ今無職。山羊座。朝眠り、夕方起きて、本を読んだり、自分で文章を書いたりして一日を過ごしているようです。それと最近、無言電話が多くなり、電話に出られません。昼はそうでもないのですが、夜から明け方にかけて、百二十から、百五十回くらいかかってきます。てなわけで、通信はしばらくファックスのみとさせていただきます。P・S 彼女がやってくるという週末はビジネスホテルに泊まるので連絡はできません。あしからず。また週明けにでもご連絡します。夢野愛」

ヤノユウコ 三通目
「前略。夢野愛先生。私の手紙は迷惑でしょうか。私は別にキチガイでもオタクでもありません。ティーンズハートの滝田さんはわかっていませんね。きっとあの人はこちら側の人ではないのかもしれませんね。先生は滝田さんに私と先生の関係を気づかせないために、訳の分からないやりとりをして、ごまかしていらっしゃるんですよね、そうですよね、きっとそうですよね。でないと、他に先生と滝田さんの言っていることはまったく私には理解できませんよ。滝田にはいつか死を持ってつぐなってもらいましょうね。この前、先生の書かれる小説からメッセージを受け取った者が私の他にいるのではないかと思い、雑誌の文通欄で呼びかけてみましたが、帰ってくる返事はみんななにを考えているのか、なにを勘違いしているのかというものばかりでした。例えば『夜空を見るとすごく帰りたくなる私です』とか『無意識の中の自分を発見することにより、人生が二倍楽しめる』とか。寝言は寝て言ってもらいたいですよね。やはり、その時を待つしかないのでしょうか。その時になれば、誰が本当の私の味方で、私の事を本当に心から心配してくれる仲間なのかわかると思います。今はまだ、その仲間がどこにいるのかはわかりませんが。きっと、どこかで私と同じ思いをしているのでしょうね。夢野愛先生、新作が難航しているみたいですね。がんばってください。またお便りします」

夢野愛 三通目
「ティーンズスイート編集部滝田様。例のヤノユウコの件ですが、私が滝田さんに流したファックス、並びに滝田さんが私に流したファックスの返事、全てヤノユウコに読まれています。すみません。ヤノユウコは私が出した燃えるゴミを家に持ち帰って全部中の物を読んでいるようです。それしか考えられません。これは犯罪にならないのでしょうか? ヤノユウコはこのファックスのやりとりを読んで、怒っているようです。私は恐いので、日が沈むと外にでないようにしていますし、もう、燃えるゴミに私文書を出さないようにしました。おかげで部屋の中は紙屑だらけです。電話番号を変えました。が、ここに書くと恐いので、書きません。電話連絡はこちらからいたします。『ドキドキハイスクール』八十枚を突破しました」

ヤノユウコ 四通目
「前略。夢野愛先生。今日は変な夢を見ました。夢の中で私の髪がどんどんどんどん抜けていくのです。これはいったいなにを告げているのでしょうか? 私はメッセージを受け取っているのに、それがいったいなにを意味しているのかわかっていないのでしょうか? 先生の家に駆け込んで、その事をお話ししようと思いました。でも、いけませんね、それは自分で見つけなきゃ、自分で感じなきゃいけないことなんですよね、きっと。私はいつもいつも、なにかあると人に頼ろうとしてしまいます。私の回りには、今、本当に信頼できて頼れる人なんていないのに。そんなこともあって今日は気分がすぐれません。食パンを買いに行ったら、道端で死んでいる猫を見つけました。ハンカチを掛けてやりました。いつか、私がこんな風に死んでしまったら、だれか、私にもハンカチを掛けてくれたらな、と思います。また、お手紙します。夢野愛先生。今日は先生にプレゼントがあります。ドアの所に置いておきます」

夢野愛 四通目
「ティーンズスイート滝田様。つい先ほど、ヤノユウコに会いました。マンションの新聞受けに、切手を貼っていない手紙が差し込まれていて、開封するとヤノユウコの手紙でした。プレゼントをドアの所においていたというので、気持ち悪かったのですが確かめに行きました。そしたら、ドアの外に彼女が立っていました。プレゼントというのは彼女自身のことだったようです。もちろん、その場『ぎゃ!』っと叫んで、ドアを閉めたので、話はしませんでした。ドアチェーンを掛けて、ロックして、ベッドの中にもぐり込みました。彼女はドアのチャイムを四十七回鳴らして帰っていきました。なんていうか、きっとオタク系の女の子だろうと思っていたのですが、ごく普通のかわいらしい、女の子でした。どうして、あんな子がこんな手紙を書き続けているのか、ますますもってわからなくなりました。とりあえず、誰かに報告したかったもので。十四時間経って、ようやく落ちつきました。夢野愛」

ヤノユウコ 四通目
「前略。夢野愛先生。今日、私そっくりな人間が先生の元を訪れたと思いますが、あれは私ではありません。私はこちら側からのメッセンジャーである先生の仕事を邪魔するような真似はしません。ただ不思議なことに、前にも書きましたが、私はよく私以外の物に操られている時間があります。今日、先生のお宅を訪問したのは、それです。これをどう表現したらいいのかわかりませんが、とにかく、あれは私ではありません。そして、それに気がついた私がドアのチャイムを四十七回鳴らすことによって、私ではないと先生に告げたつもりです。四十七…わかりますよね、先生なら、この数字の意味が。また、ご連絡いたします」

夢野愛 五通目
「前略。みなさまはますますご清栄の事と存じます。さて、この度、私、夢野愛は引っ越しいたしました。普通なら、その引っ越し先のご連絡をしなければ行けませんが、事情により、それができません。電話番号は今まで通りなのですが、留守番電話にずっとなっています。用件を入れておいてくだされば、こちらから、連絡差し上げます。なお郵便は新宿郵便局局留めでお願いいたします。勝手ばかり言って申し訳ございませんが一身上の都合ですので、ご了承下さい。では」

ヤノユウコ 六通目
「前略。夢野愛先生。もうずっと手紙が送り返されています。それでも私は先生に手紙を書き続けます。それが私の使命ですから。先生。ずっとずっと先生のことを考えています。先生の書かれた小説に出会って、私の心の眼が開きました。それは本当です。でも、その開いてしまった眼には、今までの私だったら、見なくてもすんだようなそんな。。すみません…今日はなんだか、うまく文章が書けません。いけませんよね、こんな事じゃ。私はこんな事を考えている暇なんてありはしないのに。でも先生。私も普通の女の子の生活が送ってみたかったです。今さらこんな事を言っても、しかたありませんけど、でも、でも先生、すみません。ごめんなさい、本当に、ごめんなさい。一度だけ書かせて下さい。ごめんなさい、ごめんなさい。今日の私は…ごめんなさい。今日の私はおかしいんです。今日の私は気が狂ってると思って下さい。先生のことが好きです。私は私達戦士達のカピオラの神より与えられた使命のために、命を落とすことは恐くはありません。全然、そんな事は平気です。嘘です。恐いんです。私は恐いんです。死ぬのが恐いんです。どうして私が選ばれたんでしょう。どうして私だったんでしょう。死ぬのなんて嫌です。でも先生に死ねと言われたら、私はもう弱音は吐きません。一度でいいから、私のこの気持ちを先生に伝えておきたかったし、先生に私のこの気持ちを知って欲しかっただけです。先生、先生が御本の中で予告なさっている、全人類が滅亡の危機に直面するという……最終戦争はまだですか?」
  暗転。


これを書いた数年後にロングバージョンを作りました。
 そして、その初演のあと、今はなきシアターTOPSという劇場でキャストを日替わりにして、一週間の公演を打ちました。
 その後、大阪で二度、川崎で二度(これらは、じんのの演出ではない)上演がつづきました。

 その時のキャストは以下の方々です。
 私の演出、大阪での公演、また川崎での公演の出演者、順不同です。


 これまで出演してくださったのは。

 宮村優子さん(『エヴァンゲリオン』アスカラングレー)

 羽野晶紀さん(狂言師の和泉元彌さんと 結婚この公演に出演後結婚、ほぼ引退状態となる)

 大森美紀子さん(劇団キャラメルボックス看板女優)

 佐伯日菜子さん(映画『毎日が夏休み』で、女優デビュー。その年の日本アカデミー賞新人俳優賞、山路ふみこ賞新人賞などの各新人賞を受賞、この『ファンレターズ』が初舞台。
 中島朋子さん(いわずとしれた倉本聰脚本『北の国から』のヒロイン蛍ちゃん、倉本聰さんからイメージを壊す役をやってはならないということだったが、舞台ならいい、ということで『ファンレターズ』のストーカー役を嬉々として演じた)

 横山智佐さん(『サクラ大戦』)
 松本梨香さん(ご存じ『ポケモン』サトシ)
 藤田咲さん(初音ミクの中の人)